1953年4月2日ワルシャワ生まれ。1976年、ウッチ映画大学撮影科を卒業。79年発表の短編『Deklinacja(語形変化)』が高く評価され、1988年に『Nowy Jork, czwarta rano(ニューヨーク、朝4時)』で長編映画デビュー。ポーランドで最も権威のあるグディニャ・ポーランド映画祭で新人監督賞を受賞。以来、寡作ながら、すべての監督作品が国際的な映画祭で受賞しているポーランドを代表する監督の一人。グディニャ・ポーランド映画祭では、『借金』(99)、『救世主広場』(06)で2度もグランプリに輝き、日本公開された『ニキフォル 知られざる天才画家の肖像』(04)では、カルロヴィ・ヴァリ国際映画祭やシカゴ国際映画祭でグランプリを受賞している。『借金』の脚本協力で知り合ったヨアンナ・コスは、2000年に手掛けたテレビ映画でも脚本を担当。『ニキフォル〜』では共同脚本、『救世主広場』で共同監督となり、ふたりで新たな映画世界をつくりあげた。2014年12月24日、前立腺ガンのため、永眠。まだ61歳の若さだった。本作『パプーシャの黒い瞳』が遺作となった。
1972年12月8日オルシュティン生まれ。ポーランド・テレビでキャリアをスタートさせ、ポーランド・テレビ主催の脚本家のスカラシップを獲得し、脚本家としてデビュー。クシシュトフ・クラウゼとは、『借金』の脚本に協力したことから知り合い、2000年のテレビ映画『Wielkie rzeczy(素晴らしきもの)』でも脚本を担当。ヨアンナのアイディアで始めた企画『ニキフォル〜』では共同で製作し、2006年の『救世主広場』から共同監督となる。本作『パプーシャの黒い瞳』も彼女の企画である。昨年、クシシュトフを病で失ったが、ふたりで企画していた次回作、ポーランドとルワンダで、ジェノサイドの後にいかに生きるかを見つめた心理的な映画を撮影する予定。
1979年 | 『Deklinacja』 クラクフ映画祭 Bronze Hobby-Horse of Cracow賞&国際批評家連盟賞 |
---|---|
1988年 | 『Nowy Jork, czwarta rano』(初長編) グディニャ・ポーランド映画祭最優秀新人監督賞 |
1996年 | 『Gry uliczne』 グディニャ・ポーランド映画祭審査員特別賞 |
1999年 | 『借金(Dług)』 グディニャ・ポーランド映画祭グランプリ フィラデルフィア映画祭最優秀監督賞 ポーランド映画賞最優秀作品賞&最優秀監督賞&脚本賞 2005年〈ポーランド映画 昨日と今日〉にて上映 〈ポーランド映画祭2014〉にて上映 |
2000年 | テレビ・シリーズ “Wielkie rzeczy” |
2004年 | 『ニキフォル 知られざる天才画家の肖像(Mój Nikifor)』 シカゴ国際映画祭グランプリ(ゴールデン・ヒューゴ賞) カルロヴィ・ヴァリ国際映画祭グランプリ&監督賞&ドン・キホーテ賞特別賞 |
2006年 | 『救世主広場(Plac Zbawiciela)』(監督:ヨアンナ・コス=クラウゼ、クシシュトフ・クラウゼ) グディニャ・ポーランド映画祭グランプリ ポーランド映画賞最優秀作品賞&最優秀監督賞 〈ポーランド映画祭2013〉にて上映 |
2013年 | 『パプーシャの黒い瞳(Papusza)』(監督:ヨアンナ・コス=クラウゼ、クシシュトフ・クラウゼ) カルロヴィ・ヴァリ国際映画祭 スペシャル・メンション バリャドリッド国際映画祭 監督賞・男優賞・青年審査員賞 グディニャ・ポーランド映画祭 メイキャップ賞 テサロニキ国際映画祭 観客賞(オープン・ホライズン・セクション) イスタンブール国際映画祭 審査員特別賞 ポーランド映画賞 楽曲賞・撮影賞・美術賞 |
パプーシャはクンパニアで旅するジプシーの一族に生まれた少女です。
独学で読み書きを学び、最後には、詩人として百科事典に載り、
その詩がいくつもの言語に訳されることになりました。
彼女はポーランドの最も重要な60人の女性詩人にも数えられています。
この驚くべき運命が、叙事詩的映画として語られるべきものであることに
疑いを持つ人がいるでしょうか?
また、この映画は、ジプシーの世界を観客に紹介し、
彼らの尊厳を彼らに返す機会にもなるでしょう。
かつてジプシー文化は興味をもって歓迎されることはまれで、
かわりに恐怖と攻撃の感情をよびおこしました。
イェジ・フィツォフスキは、ジプシーの人々に新たな光をあて、彼らのより良い理解に貢献し、
ジプシーたちは悪魔である、また価値のない者であると決めつけていた偏見に立ち向かいました。
いま私たちは、イェジの足跡を追って、
ジプシー文化の純粋で情熱的な魂を見せたいと願っています。
この映画には、パプーシャとイェジ・フィツォフスキ、ふたりの主要人物の他に、
第三の「集団主人公」、すなわちジプシーの世界があります。
ヨーロッパの風景の中に消えてしまったジプシーたちの暮らしを再構築することは、
私たちの5年間に及ぶ映画製作の最大の挑戦でした。
映画を完成させたとき初めて、
彼らの世界、すなわちかつてジプシーがいかに暮らしていたか、
彼らに強制的な定住政策をとったポーランド共産主義の時代までの
80年にわたる歴史を描くということが、いかに向こう見ずだったかに気づきました。
ジプシーの暮らしに関する資料は非常に少なく、
また、戦時中に行われた大殺戮については詳細がほとんど残されていません。
戦前のユダヤ文化、そしてホロコーストについては巨大な研究母体があることを考えると、
それは大きな悲劇と言えるでしょう。
しかし、この映画は何よりも“詩を創造する”ということでコミュニティの規範を越境し、
そのために多大な代償を払った女性の物語です。
人生の最後の最後まで、自分自身に忠実であり続ける勇気を持った、
偉大なる人物についての物語でもあります。
この映画は、『ニキフォル』と同様の意味で、伝記的作品ではありません。
社会政治的な映画でも、民族学的な野心を持った映画でもありません。
私たちは、創造することの勇気について、それに伴う孤独と痛みについて、
さらには報われない愛情について、そして人間の幸福について描いたのです。
*クンパニア=馬車を連ねたキャラバンのこと
1973年ワルシャワ生まれ。12歳で女優デビューし、多くのテレビ、舞台に出演。クラウゼ監督の1999年作『借金』に出演し、2000年のテレビ映画「Wielkie rzeczy(素晴らしきもの)」で主演に抜擢され、大きな注目を集める。その後も『ニキフォル 知られざる天才画家の肖像』(04)で助演、『救世主広場』(06)では主演とクラウゼ作品に連続して出演。『救世主広場』ではポーランド映画賞最優秀女優賞を受賞。
1957年ヴォンソシュ生まれ。1977年、ヴロツワフ・ポーランド劇場の「ハムレット」で舞台デビュー。以降、舞台を中心に、映画界でも活躍するベテラン俳優。本作でバリャドリッド国際映画祭男優賞を受賞。
1983年ワルシャワ生まれ。ポーランドの映画、テレビで活躍する人気男優。2006年カンヌ国際映画祭ある視点部門に出品された『Z odzysku(英語題:RETRIEVAL)』に主演し、テサロニキ国際映画祭主演男優賞などに輝き、高く評価される。その他の主な出演作に『カティンの森』(07)など。